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それから、房一は歩きながら漠然とした沈思に落ちた。
房一は苦笑した。
「大きいやつだねえ」
後で馬がいないと云ふので騒ぎだつた。
「ほらね、かういふ形のと、又別にかういふのがあるだらう」
「ねえ!」
「笹井?――御隠居さんが云つたのかい」
伊東は市ではあるが、熱海とは比較にならないほど、ひなびている。けれども温泉場であるから、道路には広告塔があって休むことなく喋りまくり唄いまくっているし、旅館からは絶え間なくラジオががなりたてて、ヘタクソなピアノもきこえる。先方も商売であるから、静かにしろ、と云うわけにはいかない。
「うん、今帰るところだ」
宿の者はこういっただけで、その以上の説明を加えなかった。伊助の報告もそれで終った。
「往診?ふむ、ふむ」
「どうぞ」
私は東京にいたころから、一日に三度四度ずつ入浴する習慣だった。しかし、うすい木でつくられた普通の沸し風呂では、冷めるのが早く、たけば熱く、こんな忘我の状態を経験することはできなかった。